2019年度学術大会(終了)
他者をめぐる法思想

日 程:2019年11月16日(土)・17日(日)
場 所:立命館大学 朱雀キャンパス

統一テーマ企画「他者をめぐる法思想」 提題趣旨

高橋洋城(駒澤大学)

【法思想史と「他者」の問題】

我々は、多様な分野におけるグローバル化・国境の流動化、それに対する反応としての排外主義や紛争の激化という現象を、日々目の当たりにしている。一方、これまで同質視され続けてきた「我々」(共同体)の内側における多様な文化的・性的・民族的差異やマイノリティの存在は、その不可視化・無視・同調圧力なども拭い去りがたく継続されながらも徐々に反省の対象となってきている。従来の国民国家や既存の共同体、あるいは生活様式の中において想像されてきた「我々」は、いまや我々ならざる「他者」(あるいは「他者」とされてきた「我々」)と新たな形で向き合うことを余儀なくされていると言ってよい。
もちろんこの主題そのものは目新しいわけではない。「他者」という問題群はあらゆる学問領域で取り上げられてきており、特に哲学においては「他者」概念こそが20世紀の中心的主題であったと評されることもあるほどである。一方、法哲学について言えば、「他者」概念そのものが学術大会統一企画のテーマとなったのが今回初めてであるのは意外であるけれども、上述の諸現象にとどまらず多様な「他者」の問題に取り組んできたのはもちろんのこと、さらに言えば、そもそも法哲学こそは、その始原から常に「他者」を主題として論じてきた学問領域であったのではないだろうか。たとえば近代までの法思想の基軸をなした「自然法」の概念にしても、ギリシャやローマがそうであったように、かかる普遍的次元の想定は共同体がその外部の他者と対峙する場面をまさにその発生地点としていた。正義を「対他的徳」と定義したアリストテレスを挙げるまでもなく、西欧の法哲学・法思想(ここでは区別せず用いる)の歴史において、法や正義は「他者」との様々な関わり方を指す規範的概念であったのであり、法思想史とは、誰を「他者」とみなすか/みなさないか、「他者」にどのように向かうべきかを論じた理論的蓄積そのものであったとも言いえよう。そう考えてよいとすれば、法思想史の中の特徴的な「他者」論を検討してみることは、現代の法哲学が取り組むべき問題群のための、基本的な視座を確認することにもなると思われる。
本企画は、以上のような展望に基づき、古代から20世紀にまで至る法思想史の中からいくつかの「他者をめぐる思想」を取り上げ、検討しようとするものである。もちろん、ここでピックアップした思想は限定的なものであり、問題群の十全なリストには到底行き着かないが、上記の展望へ向かうきっかけになればと考えている。

【企画の構成──様々な他者への様々な関わり方】

各報告がどのような「他者」の問題群を提示するかを概観しておく。もちろん各報告は必ずしも一つの他者概念に限定されるものではなく、どの報告においても複数の論点が輻輳して現われると予想される。
まず或る共同体・社会としての「我々」が「他者」と遭遇・対峙したときどのような思考を形成してきたかについては、まず松島報告(キリスト教・ストア派自然法論)、松森報告(サラマンカ学派他)の主題となると思われるが、村林報告(ミル)、西報告(シュミット)もこの視角に関わるであろう。また、近代的な主体としての自己やそれから成る「我々」が「他者」との関わりにおいていかに成立したかという論点は、とりわけ前田報告(プーフェンドルフ・スコットランド啓蒙)、重松報告(フィヒテ・ヘーゲル)において扱われるほか、西報告がこの点に関わってくるであろう。さらに共同体・社会の中の少数者をどのように「他者」として扱うか/扱わないかという論点も重要であるが、村林報告はこの点にも言及があるかと思われる。
以上は一定の「我々」の視点から見られた「他者」との関わりを問題とするが、さらに、「我々」を拒絶する「他者」自身の視点にも焦点を当てる住吉報告(シュティルナー他)は、法や正義という枠組自体に対して距離をとり相対化する次元を、本企画にもたらすことになろう。
そして最後に、小林コメントによる総括を通じて各報告の多様な他者概念を咀嚼・整理する視角を得た上で、議論を全体シンポジウムへとつなげたい。法思想史に定位した企画として、各思想・各時代の固有の特質・背景に留意を怠らない一方で、全体シンポジウムを通じて、冒頭のような現代的諸課題を意識した議論に発展することをも期待するものである。

1116日(大会1日目)
[午前の部]
〈個別テーマ報告〉
A分科会》鈴木美南・見崎史拓・飯島祥彦・菊池亨輔
B分科会》山本健人・細見佳子・塩見佳也・成原慧

[午後の部]
〈ワークショップ〉
Aワークショップ》
「法秩序における他者―カントの法・政治哲学から」
(開催責任者:木原淳(関西大学))
Bワークショップ》
「人口問題の法哲学」
(開催責任者:宇佐美誠(京都大学))
Cワークショップ》
「ジョエル・ファインバーグの法哲学を描き出す―自由と権利の観点から」
(開催責任者:川瀬貴之(千葉大学))

〈総会〉
[懇親会]

1117日(大会2日目)
〈統一テーマ報告〉
高橋洋城(駒澤大学)
「統一テーマ企画「他者をめぐる法思想」提題趣旨」
松島裕一(摂南大学)
「古典的自然法論の展開と他者の受容―ストア派とキリスト教法思想を中心に」
松森奈津子(静岡県立大学)
「他者の歓待か所有権の擁護か―「新世界」をめぐる自然的交通権とホスピタリティ概念」
前田俊文(久留米大学)
「他者と自然法学―プーフェンドルフとスコットランド啓蒙」
重松博之(北九州市立大学)
「ヘーゲル承認論と他者」
村林聖子(愛知学泉大学)
「「他者」を存在させるために―J.S.ミルの思考枠組と社会状態」
住吉雅美(青山学院大学)
「マックス・シュティルナー―市民社会の「他者」、哲学の「他者」」
西 平等(関西大学)
「敵の地位とその秩序論的構造―カール・シュミット国際法論の基礎」
小林 公(立教大学名誉教授)
「総括コメント」

シンポジウム「他者をめぐる法思想」
司会 高橋洋城(駒澤大学)、野崎亜紀子(京都薬科大学)

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