学会報第50号

(2024年9月1日発行)

再びIVR Young Scholar Prize のお祝い、
そして今年の学術大会のこと

日本法哲学会理事長 中山竜一(大阪大学)

 唐突な出だしとなり恐縮ですが、森悠一郎会員(北海道大学)が IVR Young Scholar Prize 2024を受賞されました! 先回に引き続いての、日本人研究者として3人目の受賞、本当に素晴らしいことだと思います。 IVRウェブサイトにもすでに掲載がありますが、受賞論文のタイトルは"Defending the Universal Right to Flee against the Duty to Fight for One’s Nation"です。現在の世界情勢下では、ウクライナとロシアの戦争をまずは想い起こさせますが、それだけにとどまらず過去に日本が関与してきた数々の戦争――あるいは、これから引きずり込まれるかもしれない将来の戦争(?)――にもかかわる、また世界中の誰もが決して無関係ではいられない、普遍的な課題に正面から取り組む試みであると思います。おめでとうございます! 心よりお祝いを申しあげます。
 ちなみに、この栄誉ある賞については、学会報46号でも簡単な紹介を行っています。特に、最近になって入会された若い会員の皆さんには、そちらも参考にしていただけると幸いです。これからも、森会員に続く受賞を目指して、ふるって応募してほしいと思います。
 さて、話はまったく変わりますが、今年の学術大会の統一テーマは「AIと法」です。本来であれば、もっと早い時期に行われていたはずの企画ですが、世界的なコロナ禍による学術大会それ自体の中止、そして昨年度は学会創設75周年記念企画が行われたこともあり、2年遅れての開催となりました。しかし、そのおかげで、自動運転車等をめぐってこれまでにも認識されてきた論点の数々に加えて、一昨年辺りから、Chat GPT などの生成AIが急速に普及し始めたことにより、これまでとは異なる新たな論点も意識されるようになってきました。たとえば、大学や法科大学院で仕事をしていると、生成AIが書いたと思われる学生のレポートをどう扱うかといったことが、よく話題に上ります。言うまでもありませんが、機械学習で使用された元々のデータが明示されていなければ、研究倫理の観点からして、それらは一種の剽窃に当たるかもしれませんし、さらには教員という立場からすれば、そうしたことを認めればそもそも教育の意味が失われてしまうのではないかといったことが大きな問題となります(そして実際に、国内外で大きな論争となりました)。また、これらの論点とも関わりますが、個人的には、生成AIが生み出す文章や映像や音楽等々によって、意味産出における「作者」と「テクスト」の関係性が変わるってくるのかどうかといった点が気に懸かっています(R.ドゥオーキンが『法の帝国』で取り上げたような、意味理解や解釈における「意図」の問題や、個別事例の理解と実践全体の理解との解釈学的循環の問題とも関わりますので)。
 ともあれ、会員の皆さんの多くが、それぞれの角度から、「AIと法」をめぐる諸問題に関心を持っておられることと思います。今度の学術大会では、それらをめぐって率直かつ活発な議論が繰り広げられることを、大いに期待しています。