2023年度 日本法哲学会奨励賞 (2022年期)

 日本法哲学会は、2023年度日本法哲学会奨励賞を以下の通り決定しました。授賞式は2023年度の学術大会・総会の際に行なわれました。

著書部門

池田弘乃
『ケアへの法哲学―フェミニズム法理論との対話』
(ナカニシヤ出版、20223月刊行)

学会奨励賞選定委員会の講評

本書は、国内外の数々のフェミニズムの諸理論やフェミニズム批判を周到に検討した上で、著者自身の問題関心である「ケアへの法哲学」の構想を提示するものである。女性を超えた多様なマイノリティの声を可視化・可聴化し、その普遍的理解可能性を更新していくというフェミニズムが提起する新たな価値理念を、どのように実現・制度化するかという課題に、筆者は本書で果敢に取り組んでいる。
第Ⅰ部では、第一波フェミニズム以降の理論や論争を丹念に辿りながら、法制度改革や判例への影響にも目を向け、とくに法哲学領域での議論が的確に整理・分析される。リベラリズムとフェミニズムの相補的再編を検討する中で、本質的善の構想に依拠する卓越主義とは距離をとりつつも、徳と自律の協同的な関係性が探られ、とくに他者の「もう一つの声」に耳を傾け、代弁することの意義が随所で強調される。
第Ⅱ部では、法概念論に対するフェミニズム法理論的検討が行われ、政治や道徳からの法の自立性を規範的に主張する規範的法実証主義に、フェミニズムが微妙な形で親和的である点が指摘される。そのうえで、依存が人の生の必然的事象であることを基底に据えた社会制度である「ケア基底的社会」の構想を目指し、立法府の変革、家族の法からホームの権利への展開、ケアをはかり分配する仕組み等の課題について、フェミニズム諸理論の成果を自在に用いて緻密な議論が展開される。
本書は、各章が独立した内容にもなっているうえに、何に留意すべきかといった慎重な論述が多く、筆者の一貫した主張が伝わりにくい面はある。また、ケア基底的社会を構築する原理的な理論・位置付けについては、今後さらに詳しい理論展開が求められるであろう。
とはいえ、本書では、ケア労働の公正な負担とともにケア関係の価値が模索されるなど、著者自身による重要な提案も随所でなされている。理念・制度の一方だけを論じる研究が散見される中で、本書が、理念と制度の両面に目配りして「法の境界」を見極めようとする貴重な法哲学的研究であり、フェミニズム法理論の現段階における一つの到達点であることは否定できない。以上の理由から、本書は学会奨励賞に値するものと評価された。

日本法哲学会奨励賞への推薦のお願い[2023年期] (2022年10月2023年9月分)

 日本法哲学会では、法哲学研究の発展を期し若手研究者の育成をはかるために学会奨励賞を設けています。

2024年度[2023年期]受賞候補作について、次の通り、日本法哲学会会員による推薦を受け付けますので、ご推薦いただきますようお願いいたします。自薦/他薦を問いません。(詳しくは日本法哲学会奨励賞規程をご参照ください。)

対象作品
2022年10月1日から 2023年9月30日までに公刊された法哲学に関する優れた著書または論文( 著書論文を問わず、単著に限ります。また、全体として10万字を超える論文は、著書として扱います。)
刊行時の著者年齢が著書45歳まで、論文35歳までのもの


推薦は、左にありますエントリーシートにより、日本法哲学会事務局の推薦受付用アドレス (prize@houtetsugaku.org) までお寄せください。
自薦の場合には、推薦に際し写しで結構ですから作品一部を添付願います。また、他薦の場合であっても、論文については、後日、日本法哲学会事務局から推薦者等に対して、作品1部の提出をお願いすることがあります。

上記の写しは、電子データ(ワープロ原稿など)がお手元にある場合には、それを送信いただいても結構です。ただし、公刊されたものと大幅に内容が変わっている場合には、公刊されたもの(著書、論文抜き刷り)またはそのハードコピーを郵送して下さい。
いずれの場合も、2024年度[2023年期]については2024年1月31日が締切となります。同日中に日本法哲学会事務局に到着するよう、お送りください。
選考結果の発表および受賞者の表彰は2024年度学術大会において行われます。

奨励賞選定委員会委員長 森村 進 
       同幹事 濱 真一郎