2010年度学術大会(終了)
市民/社会の役割と国家の責任

日 程:2010年11月20日(土)・21日(日)
場 所:西南学院大学 (福岡市早良区西新6丁目2-92)

統一テーマ「市民/社会の役割と国家の責任」について

大会委員長 大野達司 (法政大学)

「市民社会論」は、おおむね1990年前後から活況を示している。冷戦以降の秩序形成を契機に、自立した経済人と市場市民社会モデルをこえる、新たな公共圏とそれを形成する「市民」の潜勢力に目が向けられた。また国内外のNGO、NPOの活性化がそれを支える一方、いわゆるグローバル化が新たな課題と可能性をもたらし、政治・社会理論上の流行語ともなった。すでに20年、日本でのNPO法施行から10年ほど経過した今日は、こうした展開の可能性を掘り起こすだけでなく、その意義を問い直してみる時期にあるのではないか。「市民/社会」の可能性から質の担保へと議論の軸足が移りつつあるなかで、その国家・法的制度との関係など、法哲学の磁場で検証することには一定の意義がある。それは同時に、法哲学の古典的な論点、たとえば法の概念や妥当性をより多角的に再検討する手がかりを提供するだろう。

1、「市民/社会」について

市民社会は古典的な概念であり概念史的検討もある。それはおおまかに政治的なそれと経済的なそれに分けられ、国家と等置可能な古典的市民社会、国家と対置される近代的市民社会概念もこのように分類できる。後者には理想化された個人からなる自由主義的社会とブルジョア社会があるが、そこでも社会を包む一定の政治秩序が含意される。また、市民/社会自体に共同体性と越境性(コスモポリタン)の両者を見ることもできる。これらの要因は概念としての市民社会の両義性でもあり、今日の議論もそれらの延長線上にある。ここで「市民/社会」と表現したのも、市民とその集合体である市民社会の存在・評価の多義性を意識してのことである。「市民」は、一方で(政治的)公民と同義でもあれば、既存のプロ政治家や官僚、あるいは組合活動家などと区別される「非政治性」が標榜される。また市民運動と社会運動が対比される文脈では、弱者・少数派のアイデンティティ主張(存在)に対し、多数派の生活主張(所有)を示すものとしてむしろ克服の対象と位置づけられる。政治主体としての「市民」に「私」が対置されるのも同様である。このように「市民」はさまざまな負荷を文脈に応じて与えられる。今日の「市民社会」にも同様に、国際的なシングルイシューのNGOと地域生活密着型のNPOがあり、それらの活動、参加者の動機づけにも、「政治」的/経済的、利他的/利己的など様々な契機が同居しうる。

2、境界線の流動化:グローバル化と市民社会・主権国家

冷戦の終結、グローバル化の進展は、国民国家的主権を相対化し、非国家的組織、広い意味での「市民社会」の活躍する場が広がったという印象を与える。人権問題、地雷禁止、環境問題などの分野では、国際NGOによる条約成立への影響、あるいは実質的リーダーシップへの評価がある一方、経済を中心とした分野では、多国籍企業や金融資本が国際官僚と連携して、グローバル・ガバナンスの方向を決定づけている。また、グローバル化は国際関係にとどまらず、国内秩序の解体と形成に直接作用してきた。NGOを通じた国内外の政策形成における「ブーメラン効果」に限らず、それらは身近なところにもある。環境問題から、大規模店舗の進出、外国資本や企業の受入れ、さまざまな「グローバル・スタンダード」も含めた物の移動、また労働力など人の移動が市民の生活環境に直接間接に影響を及ぼしている。その結果、「市民」の側からの異議や要求、さらに世論形成を通じた政策形成が期待されている。「市民社会」の活動は国家を通じた公的なものに限られず、むしろそれらの問題や課題の性質からも、「市民」が家族・近隣・結社などで相互に扶助や支援をしながら、自分たちの生活空間を自ら形成していくところにも、ある種の「公共」がある。金融危機以降の協調的金融政策、また本企画ではEUの実態を踏まえ、『国家の退場』との判断は早急だともいわれるが、こうした「社会の役割」への公的制度による支援にも、「国家の責任」問題の新たな形態がある。

3、意思形成の人格的基礎と社会的基礎

「市民社会」活動の拡大は、民主的な(市民の関与)政策形成・法形成への期待とともに、その位置取りの多様性から逆に民主的正統性への疑問もある。それは別の観点からは、支援・ナショナリズムなど、ある種の「連帯」形成ないし連帯の基盤という古典的問題の変形である。正統性獲得の基礎は社会的課題の実現責任のような機能的な面へ解消可能なのか、それに先立って何らかの共属性が必要だとすればそれは何か。各地域や生活に近い要求を実現する「市民/社会」は、そのクライアントからの「正統化」は、対面的関係の中で、あるいはサービス等の需給関係(広義で寄付も含め)により測られる。しかし地域性を脱した「市民社会」活動でもアカウンタビリティをはじめとする「需給関係」は重要だが、とくにテーマが実生活と距離がある場合、これとは異なる形で正統化が必要になる(規範起業家)。いずれにしても「市民/社会」の関与は、そこから生み出される公的ルールの妥当性にとって、代表=合意という単線的な民主的正統化ではとらえきれない複合的な観点を要求しているように見える。
 以上のような関心から、社会の自律性を再検討し、国家と直接接続しない「公共」の余地をとらえ、それが公共的といえることの意味・尺度を問い直す試みが、セクション1である。いわばミクロな公共性である。NPOの質的評価基準から日本の現状を分析し、消費者保護と成年後見を例に、個の意思形成に対する支援とその法制度的整備としてのさらなる支援のあり方、支援活動が行政の下請けとならず、自立できる条件が問われる(「自律・自立化問題」)。その上で、セクション2では政策形成というマクロな公共性への「媒介問題」、あるいは逆に公的権力からの「防禦問題」、そして両者の関連が国家との関係で再検討される。セクション3ではさらに対象を広げ、国家間の関係を素材に「市民/社会」の対極にある国家主権の現況を取り上げる。主権の相対化と呼ばれる現象はグローバル化の帰結でもあるが、そこでも「市民/社会」の越境性が新しい局面を生み出しており(「越境問題」)、このような空間的重層性が妥当しない問題領域も多い。総括コメントを含め、各層間相互での問題提起と議論が不可欠な所以である。

11月20日(大会第1日)
[午前の部]
 〈個別テーマ報告〉
   《A分科会》白川俊介・疋田京子・松岡伸樹
   《B分科会》米村幸太郎・登尾章・上本昌昭(報告順)
 〈特別講演〉
  深田三徳(同志社大学)「法哲学・実定法学と「法の支配」の諸問題」

[午後の部]
 〈ワークショップ〉
   《Aワークショップ》
    「R.アレクシーの法理論」(開催責任者・足立英彦(金沢大学))
   《Bワークショップ》
    「法と文学(Law & Literature)の展望」(開催責任者・谷口功一(首都大学東京))
    「規範の内容的基礎はどこにあるか—生命倫理の場でー」
         (開催責任者・野崎亜紀子(広島市立大学))
   《Cワークショップ》
    「ロールズの正義論を検証する」(開催責任者・渡辺幹雄(山口大学))
 〈総会〉
[懇親会]

11月21日(大会第2日)
 〈統一テーマ報告〉
 大野達司 (法政大学)
   統一テーマ「市民/社会の役割と国家の責任」について
セクション1:支援秩序としての市民社会と国家の責任
 田中弥生(大学評価・学位授与機構)
   「NPO法制にみる国家的支援の現状と課題」
 熊谷士郎(金沢大学)
   「消費者保護法制にみる弱者の保護と国家」
 菅富美枝(法政大学)
   「判断能力の不十分な成年者の支援と市民社会—「支援型社会」の構築」
セクション2:国家秩序と市民/社会の役割
 毛利透(京都大学)
   「行政権開放の諸形態とその法理」
 那須耕介(摂南大学)
   「市民社会とその非政治的基盤について」
セクション3:グローバル化と市民/社会
 遠藤乾(北海道大学)
   「国境横断的なガバナンス、国家主権、市民社会—欧州連合を事例として—」
 谷口功一(首都大学東京)
   「グローバライゼーションと「共同体」の命運—市民の連帯/非連帯と国家の役割」
 杉田敦(法政大学)
   「総括コメント」
シンポジウム「市民/社会の役割と国家の責任」
   司会 大野達司(法政大学)・吉岡剛彦(佐賀大学)

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