2008年度学術大会(終了)
法と経済:制度と思考法をめぐる対話

日 程:2008年11月22日(土)・23日(日)
場 所:学習院大学 (目白キャンパス)

本統一テーマの趣旨

大会委員長 宇佐美誠

 われわれが住まう近現代という時代は、法化と市場化を特徴としていると思われる。ここで言う法化は、1970年代以降のドイツ・アメリカ・日本で論じられてきたよりも広く、西欧で16世紀以降に進展し他地域へと伝播してきた社会秩序の法的制度化の全体をさす。他方、16世紀の世界的分業・貿易システムの成立から今日のグローバリゼーションにいたるまで、じつに多様な仕方で市場化が進展してきた。このような理解が誤りでないとすれば、近現代社会は法制度と市場経済によって性格づけられるだろう。
 法制度と市場経済からこれらを探究する学問的営為に目を移すと、19世紀後半以来の社会科学・人文学で専門分化が進行するなか、法学と経済学は別個独立に発展する道を歩んできた。しかし、20世紀後半における学際化の1つの表れとして、合衆国では、「法と経済学」が生成し著しい発展をとげている。わが国でも、約30年前に「法と経済学」の導入が行われ、法的事象の理論的・実証的研究が蓄積されてきた他、経済学的観点からの規制緩和論も提唱されている。だが、少なからぬ法学者の間には、「法と経済学」さらには経済学全般に対する冷淡な姿勢も見受けられ、その受け止め方にはかなり幅がある。

 上記のような世界的近現代史理解および国内的現状認識の下、「法と経済学」の可能性と射程を1つの主要論点として位置づけながらも、より広い視野のなかで法律学と経済学の関係、また法制度と市場経済の関係について学際的考察を深化させることが、本統一テーマ企画の目的である。報告のねらいは、経済学上の根源的論点やわが国の「法と経済学」での代表的論点を、法哲学的問題関心と噛み合うような仕方で考察することにある。その上で、一部の学会員による経済学への批判的な見方を掬い上げて理論化し、経済学者との論争的対話を促進するために、各報告に対して個別に討論を設ける。
 本企画は、学問分野を構成する二大要素、すなわち方法ないし思考法と対象である社会制度とを基本軸とする。統一テーマに関する提題と展望を私が述べた後、4組の報告および討論が行われる。(1)鈴村興太郎教授は、経済学の基礎にあるパレート効率性の概念を考究し、衡平性・権利・正義との関係を検討し、経済制度との関わりに論及する。これを受けて、後藤玲子会員が討論者として、法価値論的問題関心との架橋を図る。鈴村報告は経済学の方法を主題化しつつ、同時に他の報告に対する総論ともなる。次の2報告では、法制度と経済制度の相互影響が検討される。(2)八代尚宏教授は、立法や裁判が市場に与える影響の一例として、解雇権濫用法理とその立法化が労働者におよぼす負の影響を論じる。八代報告に対しては、浅野有紀会員が、非経済的価値を考察する権利論の観点から討論を行う。(3)井堀利宏教授は、市場での生産者・消費者が立法や行政に与える影響について、戦後日本の諸政策を例として政治経済学的分析を行う。井堀報告に対しては、谷口功一会員が、政治経済学の射程を問う討論を行う。これら2つの報告を経て、再び学問方法へと戻る。(4)亀本洋会員は、経済学全般の批判的検討を行った上で、「法と経済学」の可能性と限界について考察する。亀本報告に対しては、太田勝造教授が、「法と経済学」研究者の立場から討論を行う。最後に、嶋津格会員により、4報告を有機的に関連づけて論評する総括討論が行われる。

 以上のような報告者と討論者・総括討論者との学際的対話を通じて、経済学的思考の基本性格、経済学的な法的事象分析の特徴、法学的思考と経済学的思考の異同および接点、法哲学的研究にとっての経済学の意義および射程、そして「法と経済学」の展望などが浮き彫りになることをめざしている。シンポジウムでは、会員諸兄姉による討議への積極的参加をとくにお願いしたい。

11月23日(大会第2日)
【午前の部 9:00〜12:10】
宇佐美 誠(東京工業大学)
 「法と経済——提題と展望」
鈴村 興太郎(早稲田大学)
 「パレート効率性、衡平性、権利の社会的尊重および正義」
後藤 玲子(立命館大学)
 「鈴村報告への討論」(仮題)
八代 尚宏(国際基督教大学)
 「雇用保障の法と経済学」
浅野 有紀(近畿大学)
 「八代報告への討論」(仮題)
井堀 利宏(東京大学)
 「立法への経済的影響」
谷口 功一(首都大学東京)
 「井堀報告への討論」(仮題)

【午後の部 13:30〜17:00】
亀本 洋(京都大学)
 「法、法学と経済学」
太田 勝造(東京大学)
 「亀本報告への討論」(仮題)
嶋津 格(千葉大学)
 「総括討論」(仮題)
シンポジウム「法と経済——制度と思考法をめぐる対話」
 司会:宇佐美 誠(東京工業大学)・那須 耕介(摂南大学)

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